DX化を進める上で、リスキリングは欠かせない取り組みの1つです。企業がデータとデジタル技術を活用して競争優位性を確保するには、デジタルで価値を創造できるスキルと能力を備える人材が必要になるからです。本記事では、リスキリングの進め方やポイントなどを解説します。
もくじ
DXとは
DXは「Digital Transformation」の略で、直訳すると「デジタルによる変容」です。広義ではデジタル技術を社会に浸透させることで生活やビジネスが変容することを指し、ビジネス領域に限った言葉ではありません。
経済産業省のDXレポートでは、以下のように解釈されています。DXにおけるリスキリングは、こちらの解釈を踏まえて進めると齟齬が生じないでしょう。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して競争上の優位性を確立すること
上記は顧客や社会のニーズに応じて製品やサービス、ビジネスモデルのほか、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革することによって実現する
経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf)
DX推進はあらゆる企業にとって、変化の激しい状況下で市場における競争優位性を維持し続けるために必須な取り組みといえます。
DX化のために必要なこと
DX化のためにまず必要なのは、業務の「見える化」です。DX化の推進にあたり、どのような業務からデジタル化を進めるかを検討します。その際、業務がブラックボックス化や属人化していると、DX化の障害になる可能性があります。外から業務の内容を把握することが困難になっていたり、限られた人だけが業務内容を理解していたりすると、業務プロセスの把握ができないためです。
業務のDX化を進めるには、以下のPDCA的なサイクルを構築することが有効です。
●業務プロセスのデータを収集する
●当該部門とほかの部門を一気通貫でつなぐためのデータ加工を行う
●データ分析と改善アクションの検討及び実行
改善アクションとしては、チャネルの最適化やリソースの再配分、セグメンテーションの見直し、KPI設定などが挙げられます。
また、データとデジタル技術の活用によって企業を変革させるには、デジタルで価値を創造できるスキルと能力を備える人材が必要になるでしょう。業務のDX化を促すPDCAサイクルの構築を可能にするためには、人材要件の設定や人材育成も必須です。そのため、リスキリングの取り組みが不可欠といえます。
リスキリングとは
リスキリングの広義は「スキルの向上のための学び直し」です。近年では、DX化に伴って誕生する職業や、進め方が大きく変わると考えられる職業につくためのスキル習得を指すケースが多く見受けられます。
前述の通りビジネス環境の激しい変化に応じて、企業の業務やプロセス、風土に至るまで変革が求められています。企業の変革を成功させるには、社内の多くの人材がデジタルを活用して価値を創造できるようになる必要があります。そのような人材の育成に有効なのがリスキリングです。
OJTとの違い
OJTとは「On-the-Job Training」の略で、直訳すると「職業内訓練」です。つまり、職場の上司や先輩が部下や後輩に対して実際の仕事を通して指導し、知識や技術などを習得させる教育方法を指します。リスキリングとOJTの主な違いは、スキルの取得が新たに生まれる仕事のためか、既にある仕事のためかという点です。
またOJTは、既存の部署や仕事に必要なスキルを体得するための教育方法です。一方リスキリングは「現状は社内に無いものの、今後必要とされることが想定される新しい仕事に取り組むためのスキルを取得すること」を指す傾向にあります。
リカレント教育との違い
リカレント教育は、社会人になった後に仕事で求められるスキルや能力を、自分のタイミングで学び直すことです。リカレント(recurrent)には「循環する」「繰り返す」といった意味があり、各自が必要なタイミングで教育を受け、再び仕事に復帰することを指します。
社会人になった後に再教育を受けるという意味ではリスキリングと同じですが、リカレント教育の主体が個人であるのに対し、リスキリングは企業が戦略的に行う点が異なります。また、リカレント教育は一度仕事を離れて教育機関で学び直すイメージですが、リスキリングは業務と並行してスキルを身につけることも、違いとして挙げられるでしょう。
リスキリングについては、以下の記事もご参考ください。
DX時代にリスキリングが重要な理由
DX時代にリスキリングが重要とされる主な理由は、以下の3点です。
●デジタル技術の進歩
●人手不足の加速化
●企業のDX化の推進
順番に解説していきます。
デジタル技術の進歩
デジタル技術の進歩によって、リスキリングの重要性が高まっています。デジタル技術の進化が、企業のビジネスモデルやサービス、製品のあり方などを大きく変化させていることが原因です。
ビジネスを取り巻く環境が大きく変化する中で、AIやIoT、ロボット技術などに関連した新たな仕事が増えていくと考えられます。IoTとは「Internet of Things」の略語で、日本語では「モノのインターネット」という意味であり、モノがインターネット経由で通信することを指す言葉です。そのほか、従来とは進め方が大きく変わるであろう仕事も増えることが想定されます。
このように新たに誕生する仕事や、取り組み方が変わる可能性のある仕事に就くために必要だと考えられているのが、リスキリングです。
深刻な人手不足
深刻な人材不足も、リスキリングが重要とされる理由の1つです。企業価値を高めて市場価値で優位性を発揮するには、デジタル技術を活用し新たな価値を創出する必要があります。しかし、現状デジタル技術を活用できる人材が不足している企業がほとんどです。
さらに少子化も影響して、デジタル技術を使いこなせる人材の確保がさらに困難になることが想定されます。そのためリスキリングの体制を整備し、社内の人材を教育、育成していくことの重要性が高まっています。
デジタル技術を活用できる人材というと、システムエンジニアやプログラマーなどの人材を思い浮かべがちですが、そのような一部の人ではなく、すべての社員に対して必要な取り組みである点に注意しましょう。
企業のDX化の推進
リスキリングが重視される背景には、企業のDX化の推進も挙げられます。DX化によって新たな価値が創造されるほか、業務フローが効率化されることで業務の効率化や生産性の向上につながることも期待されるでしょう。
しかし、多くの企業でデジタルに精通した人材が不足しているという実態があります。そのため社内でデジタル人材を育成する方法として、リスキリングが注目されているのです。
DX化を実現するために必要なリスキリング
DX化を実現するために必要なスキルを確認しておくと、リスキリングが効果的なものになるでしょう。ここではマネジメント側とスタッフ側に求められるスキルをそれぞれ解説します。
マネジメント側に必要なこと
マネジメント側に特に必要とされるのは、仮説検証力です。データサイエンティスト協会が定めるスキル体系の中では「意味合いの抽出・洞察」と「アプローチ設計」の2つに分けて定義されます。
しばしば「データの解釈力」と混同されがちですが、全くの別物です。データの解釈力は抽出したデータから何がいえるかを考えますが、仮説検証力はその思考の順番が逆で、仮説立てした意味を抽出するためにデータがどうなっている必要があるかを考えます。
スタッフ側に必要なこと
スタッフ側に期待されるのは、正確性の高いデータを収集するスキルです。具体的には効果的なデータの収集方法を理解し、情報収集する対象の見極めができるかが重要となるでしょう。またどのような情報が必要なのかの取捨選択や、ツールを用いた情報共有の方法を身に付けることも求められます。
リスキリングを進める際の3つのポイント
以下の3つをおさえてリスキリングを推進していましょう。
●取り組みやすい社内環境をつくる
●社員のモチベーションを維持する仕組みを作る
●社外のリソースを活用する
取り組みやすい社内環境をつくる
リスキリングを導入する際、取り組みやすい社内環境をつくることが重要です。できるだけ多くの人の理解を得るように努め、それによって賛同者をつくり協力体制を整えましょう。そのためには、リスキリングの必要性を社員にしっかり説明することが求められます。先進的にリスキリングを行っている、海外の事例を共有する取り組みも効果的です。
また、リスキリングの重要性を個人レベルに落とし込む視点を持つこともおすすめです。社内で価値を生み続ける人材として生き残り続けるために、不可欠な学びであることを伝えましょう。それによって企業の戦略としてだけでなく、社員が自ら成長することに意欲的になり、変化を厭わず新たなスキルや知識を身に付けようとする企業風土が醸成されていきます。
例えば業務時間内に取り組む時間を設定する、リスキリングを行う人へのインセンティブを設けるといった環境整備が有効です。社内での意思統一を図り、一丸となってリスキリングに取り組めるような環境づくりを心がけましょう。
社員のモチベーションを維持する仕組みを作る
リスキリングは、継続することで効果を発揮します。そのため取り組みの途中でトーンダウンすることのないよう、モチベーションを維持するための仕組み作りが必須となります。
リスキリングに対する社員のモチベーション維持のための仕組みとしては、以下のようなものが考えられるでしょう。
●同じ目的意識を持つ複数のメンバーで取り組んでもらう
●インセンティブを用意する
●リスキリングによる成長を実感してもらう
社外のリソースを活用する
リスキリングはDX化を進めるために有効な取り組みですが、導入することで担当部署や現場には少なからず負荷がかることが想定されます。これらの負担をあらかじめ織り込み、無理なく取り組みが継続できるように体制を整えていくことが大切です。
例えばリスキリングでは、学習内容の選定や学習計画の策定、学習後の効果測定などを行う必要があります。基本的に、企業にとって経験のない領域であるため内製化が困難なことも少なくないでしょう。
そもそもデジタル分野に強い企業でない場合、すべてを社内で行う必要はありません。デジタルに関するスキルは業種にかかわらず共通することが多いためです。外部コンテンツやプラットフォームを活用するほうが、時間と費用の節約になる可能性が高いでしょう。
各プロセスにおいて、状況に応じて社外のリソースを有効に活用することで、社内の負担を少しでも軽減できるよう配慮しましょう。
リスキリングを進めるための4つのステップ
リスキリングは、以下の4つのステップで進めることが効果的です。
- 事業戦略に合わせて必要な人物像やスキルを定める
- 教育プログラムを定める
- 社員に実施してもらう
- 実践で活かす
各ステップの内容を順番に解説していきます。
1.事業戦略に合わせて必要な人物像やスキルを定める
リスキリングを目的ではなく手段にするには、DX化を実現するための事業戦略に連動した人材戦略を策定することが第1のステップです。
今後展開する予定の事業に必要なスキルを持つ社員がいない場合、リスキリングの対象とされます。まずは事業戦略を実行するうえで必要な、人材像やスキルを明確にしましょう。
2.教育プログラムを定める
DX化推進を目的にした事業戦略と、それを踏まえた人材戦略を策定したら、教育プログラムを定めます。プログラムの策定にあたって、人材戦略に沿った必要なスキルをもつ社員がいるかどうかの確認が必要です。社員がそれぞれ保有するスキルを把握し、どのような仕事に適性があるかを確認します。
教育プログラムは、社員が現状保有しているスキルと今後習得する必要なスキルのギャップを把握し、決定しましょう。一般的にリスキリングの対象となる学習内容は専門性が高く、実践的な教育が求められます。内製化が困難な場合は、外部の専門家に相談したり、外部教育コンテンツの活用も検討したりするとよいでしょう。
3.社員に実施してもらう
教育プログラムが決まったら、社員に実施してもらいます。リスキリングは継続してはじめて効果を発揮するものです。前向きに取り組み続けられるように、就業時間中に学習できる時間を設定するなど環境整備が必要なことは、すでにお伝えした通りです。
リスキリングを就業時間外に学習するものと定義すると、社員は負荷に感じるかもしれません。また強制力を強く働かせることも避けたほうがよいでしょう。社員1人ひとりがリスキリングの必要性をどこまで理解し、腹落ちしているかが問われます。
無理なく継続できる取り組みにするため、1on1などの機会を通じて本人のキャリア観を把握し、ある程度意向を尊重することが大切です。
4.実践で活かす
リスキリングの取り組みのゴールは、得られたデジタルスキルを実際に業務で生かすことです。そのためにも、業務で活かせるレベルの学びが得られるコンテンツ選びが鍵になるといえるでしょう。
受講後に現場経験を踏むことも必要です。社内インターンシップやお試し配属など、実践で活用できるような仕組みづくりを検討しましょう。実践結果に対してフィードバックを行う機会を設け、スキルのブラッシュアップを続けることも重要です。
リスキリングは『shouin for セールス』!
DX化の推進には、デジタルで価値を創造できるスキルと能力を備える人材を確保する必要があるため、リスキリングが不可欠といえるでしょう。ただしリスキリングの導入によって、現場に少なからず負担がかかることが想定されます。また経験のない領域である可能性が高いため、内製化が困難な可能性が高いです。そのため、社外のリソースを有効に活用することを検討しましょう。