最近、「カスタマーサクセス」という言葉を耳にする機会が増えましたが、この言葉の意味をご存知でしょうか。簡単に言うと、カスタマーサクセスとは顧客のサポートやケアをすることで満足度を上げ、自社のブランド構築や利益の最大化につなげることです。
では、なぜ今この考え方が注目されているのでしょうか? ここではカスタマーサクセスの目的やメリット、実際に導入する際のポイントについて、従来の営業との違いも織り交ぜて解説します。
もくじ
カスタマーサクセスとは
まず、「カスタマーサクセス」の目的と、今注目されている背景について説明します。
カスタマーサクセスの目指すもの
カスタマーサクセスを日本語に直訳すると、「顧客の成功」という言葉になります。顧客の成功(=事業の成果)のために尽力することで、結果的に自社利益の最大化につながるような、顧客と自社の「Win-Winの関係を目指す」というのがカスタマーサクセスのコンセプトです。カスタマーサクセスを実践する主な目的は、自社の商品/サービスを利用する顧客のサポートを通じて、継続利用やアップセル、クロスセルを促すことです。
その手法に決まりはなく、自社のサービスや顧客属性、得たい成果やゴールなどにより、さまざまな対応が考えられます。例えば、顧客がサービスを活用するためのアクションプランを一緒に作成したり、定期的に利用状況についてヒアリングする機会を設けたり、顧客が気軽に問い合わせられるチャットを提供したり、顧客同士が交流できるコミュニティを提供したり、または商品自体の機能を追加/改善したり…など、商品タイプやサービス形態によって具体的な取り組みは変わります。
似た言葉である「カスタマーサポート」と混同されやすいのですが、カスタマーサポートは顧客満足度を高める方法の一つです。カスタマーサクセスという考え方のもと、それを叶える手段の一つがカスタマーサポートであるとも言えますが、一般に「カスタマーサクセス」という言葉を使う際は、より能動的に顧客に働きかけることを意味する場合が多いです。
しかし何より重要なのは、顧客が「長期的に」その企業の商品やサービスを使いたくなるようなアプローチをすることです。能動的に働きかけると言っても商品の売り込みを優先するのではなく、あくまで顧客の役に立つための手助けをし、信頼を得ることで自社のファン化を促すのです。
カスタマーサクセスが注目されている理由
そして、今カスタマーサクセスが注目されている背景としては、近年のSaaS(ソフトウェアを購入・構築することなく利用できるサービスのこと)の普及により、定額の利用料を支払うことでサービスを利用できる「サブスクリプション型ビジネスモデル」が増加していることが挙げられます。このビジネスモデルは、顧客が商品を購入して所有することではなく、そのサービスがもたらす価値に対して報酬を支払うという形で利益が生まれています。つまり、顧客が継続利用を決断するたびに利益が出るため、継続利用を促すにあたりカスタマーサクセスが重要視されているのです。
カスタマーサクセスを導入できるビジネスモデルはサブスクだけではない
しかし、カスタマーサクセスが活かされるのは何もこのビジネスモデルに限ったことではありません。企業の発展のためには当然ながら利益を生む必要があり、その利益は顧客がどれほど長期間継続してサービス利用をするのか/商品を買い続けるのか、そして客単価を上げるのかにかかっています。もちろん、一度関係を構築した顧客が競合他社に流れてしまうことも防がなければなりません。
このように、従来の売り切り型の商品やサービスだとしても、リピーター獲得や顧客のLTV向上が重要課題であることには変わりありません。そこでカスタマーサクセスの「顧客満足度を上げることで顧客のファン化を狙う」という考え方は、さまざまなビジネス形態において非常に重要なものといえます。
カスタマーサクセスのメリット
それでは、カスタマーサクセスを取り入れるとどのようなメリットがあるのでしょうか。
顧客離れを防ぎ、継続率を高められる
カスタマーサクセスの目的の一つに、顧客をサポートすることにより、自社の商品・サービスの継続利用に繋げることがあります。継続利用については前述した通りで、企業の発展にはマストな項目ですので、この課題を抱えている場合はカスタマーサクセスの取り組みを検討した方が良いかもしれません。
顧客ロイヤルティを高めてLTV最大化に繋げられる
顧客ロイヤルティとは、顧客がその企業ブランドや商品/サービスに対し信頼や愛着を抱くことを指します。語源である「loyalty(忠誠)」の通り、顧客ロイヤルティを高めれば高めるほど、顧客はそのブランドや商品/サービスを利用・購入することにこだわりを持つようになっていきます。
身近なところで例えると、「PCはこのメーカーのものしか使わない」「時計はこのブランドに決めている」といったこだわりがある方も多いのではないでしょうか。
そのこだわりを持つ顧客のことを一般的に「ロイヤルカスタマー」と呼びます。自社の顧客をこのロイヤルカスタマーに育成できれば、競合企業が出てきたとしても、自社サービスを選び続けてもらえるようになり、結果的にLTV向上も期待できます。
また、ロイヤルティが高い顧客は知人への紹介や、口コミによる拡散などにも協力してくれる傾向があります。既存顧客の満足度向上が、間接的に新規顧客開拓にもつながるのです。
新たなニーズやサービスの改善点などのヒントを得られる
カスタマーサクセスを通して顧客とのコミュニケーションを取ることで、顧客のニーズを聞くことができ、一つ一つの意見はサービス改善のヒントになります。
また、信頼関係を構築できれば本音を引き出しやすく、顧客インサイトを探ることも容易になるでしょう。
このように、カスタマーサクセスは顧客の購買行動にもサービス開発にも大きなメリットをもたらします。顧客ロイヤルティを上げることができれば、顧客離れを防ぎ、アップセルやクロスセルを促すこともできますし、さらなる商品/サービスの改善のヒントも得られるため、結果的に顧客と自社とが互いにWin-Winな関係になることができるのです。
カスタマーサクセス導入のポイント
ここまでカスタマーサクセスの概要を紹介してきましたが、いざ導入する際にはどのような点に気を付ければいいのでしょうか。
まず、カスタマーサクセスは従来の営業とは違い、明確な手法や手段が確立されているわけではありません。自社の課題に対し効果的なアプローチを考えることと、社内でその役割を担う人物がどのように業務に取り入れるのかを考える必要があります。
そして、営業が基本的に新規の顧客・案件獲得に重きを置いているのに対し、カスタマーサクセスは獲得後の継続や満足度の向上に重きを置いています。時系列で言えば、ある見込み客が顧客化「するまで」を担うのか、「した後」をフォローするのかということです。
実際に取り組むにあたっては、その役割分担の仕方には大きく分けて2つあります。「営業担当が兼任する」パターンと「役割を分担して専属チームを作る」パターンです。
ここでは、それぞれのパターンの導入ポイントを見ていきます。
営業が兼任する場合
組織体制や人員の関係で専属のカスタマーサクセス部門を置くことが難しい場合、営業がカスタマーサクセスの役割を兼務するのが現実的でしょう。また、新規開拓より継続維持が重要なビジネスモデルの場合は、リソースを継続維持に置く方が利益向上を期待できます。顧客を最初から知る理解者である営業の力を借りるのは有効な手段です。
この方法は、入口から購入後のサポートまで同じ担当者が担うため、顧客との信頼関係を築きやすいという大きなメリットがあります。
ただ、営業の業務と兼任する分、対応しなくてはならない業務が広範になってしまうため、顧客が増えるほど対応の質が下がってしまったり、全ての顧客をカバーしきれなくなる可能性があることはデメリットといえます。また、関係性ができている既存顧客対応ばかりにリソースを割いてしまい、ハードルの高い新規顧客開拓が疎かになるというような事態も考えられます。
役割を分担して専属チームを作る場合
ある程度組織が大きい場合や、営業の新規開拓が重要視される組織の場合は、カスタマーサクセス部門を独立して立てる方が効率的です。
この場合のメリットとして挙げられるのは「顧客対応の質を上げやすいこと」です。分業制にすることで、営業は新規開拓に集中することができ、カスタマーサクセスは顧客サポートの専門スキルや知識を身に着けながら業務に携わることができます。それぞれが専門的にスキルを磨き、ノウハウを積み上げられるため、カスタマーサクセス側も営業側も顧客対応の質を高めやすくなります。
反対に、デメリットとして挙げられるのは「人件費がかかること」と「部署間で適切な情報共有をする必要があり、手間がかかること」です。
特に後者は気を付けたいポイントで、顧客に対し複数人でサポートをするため、CRMシステムのような今までのやり取りの履歴を記録できる仕組みを通じ、きめ細かな情報共有を行う必要があります。
理想を言えば、カスタマーサクセスの専任を立てることで顧客対応の質は上がりやすいでしょうし、マルチタスクになるリスクも防げます。
営業は入口をくぐるまでのサポート、カスタマーサクセスは入ってきた顧客が出口に向かってしまわないようコミュニケーションを取ったり、サポートすることが役割と大きく違うので、分業にした方が担当業務へのスタンスのブレも起きにくいかもしれません。
まとめ
カスタマーサクセスは、顧客をサポートすることで、結果的に自社を成功へと導くことです。そのために顧客にとっての「サクセス」とは何か考え抜き、能動的に働きかける必要もあるのがこの役割の奥深いところです。
ビジネスモデルに関係なく、顧客の継続利用やファン化は重要課題なので、今後カスタマーサクセスはどの企業でも重要視されていくと思われます。まだ自社で取り組めていない場合には、どのような取り入れ方が良いのかも含め検討することをおすすめします。