変化の激しい時代において、営業担当者に求められるスキルは大きく変わります。そんな変化に対応するために注目されているのが、技術や知識を学び直すリスキリングです。
今回は、リスキリングの概要や営業活動における学び直しの重要性を解説します。導入時のポイントや運用ステップも紹介するため、リスキリングを取り入れる際の参考にしましょう。
もくじ
リスキリングとは
リスキリングはとは技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、新しい知識やスキルを習得することです。欧米では早期に取り組まれていたリスキリングですが、近年では人材不足が叫ばれる日本でも大きな注目を集めています。
日本は少子高齢化で労働人口が減少しており、人材獲得競争が激化しているのが現状です。採用競争が厳しい時代だからこそ、既存社員が一人ひとりの知識やスキルを高めて生産性を上げることが求められています。
一般的なリスキリングの定義は「 今持っていないスキルを得る 」ことですが、営業のリスキリングは営業担当が「今はできていないこと」を学んで⾝につけることです。リスキリングについて詳しく知りたい場合は、以下の記事を確認してください。
リンク:DXにおけるリスキリングとは?メリット・デメリットと取り組む際の3つのポイント
営業活動におけるリスキリングの重要性
VUCA(ブーカ)時代に突入したことにより顧客ニーズが多様化し、従来の営業手法では通用しなくなってきました。VUCA時代とは「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」を表す言葉です。元々は1990年代後半に軍事用語として発生した言葉ですが近年の変化が激しい先行き不透明な社会を指して、ビジネスの場でも使われるようになりました。VUCAは、以下の4つの単語の頭文字をとった略語です。
● Volatility(変動性)
● Uncertainty(不確実性)
● Complexity(複雑性)
● Ambiguity(曖昧性)
研修やOJTなど「今ある仕事」への営業研修の種類は多くありますが、それらだけで環境の変化に即座に対応できる能力を身につけるのは困難です。
顧客のニーズが多様化する現代で新規顧客の開拓やリピート率の向上を図るために、柔軟に対応できる能力を身につけられるリスキリングが重要視されています。
企業が営業のリスキリングに取り組むメリット
リスキリングの導入により得られる具体的なメリットには、次のようなものが挙げられます。
● 業務の効率化と生産性の向上
● エンゲージメントの向上
● 人材採用・育成のコスト削減
● イノベーションの創出
それぞれのメリットを解説していきます。
業務の効率化と生産性の向上
営業のリスキリングに取り組むことにより、業務効率化や生産性の向上に繋がります。近年はデジタル新技術の発展がめざましく、DXを活かして購買行動や顧客接点を最適化することを求められています。DXとはデジタル・フォーメーションの略で、デジタル変革のことを指します。単なるデジタル化ではなく新しいIT技術を活用して働き方を変革し、新たな企業の確立を目指す取り組みです。
リスキリングによりデジタルスキルや知識を獲得した人材が増えれば、顧客との関係性を管理できる「CRM」や営業活動をデータ化して分析できる「SFA」によって営業担当者の業務を自動化できます。その分、商談の準備や新商品の企画開発に向けた情報のインプット、顧客とのコミュニケーションに時間を割くことができます。コア業務に時間を充てられるため、残業時間も削減できて生産性向上にもつなげられるでしょう。
エンゲージメントの向上
社内の担当者に学びの機会を与えキャリア形成の支援をおこなうことで、エンゲージメントの向上が期待できます。エンゲージメントとは、社員の会社に対する愛着心や思い入れを表す指標のことです。エンゲージメントが高い人ほど会社への貢献や仕事のやりがいを感じられるため、会社への定着率が上がります。
近年は、少子高齢化の影響による労働人口の減少で、既存社員の離職を防ぐための取り組みをおこなう企業も少なくありません。エンゲージメントの低下は離職率へつながるため、優秀な人材が流出するおそれもあります。リスキリングに取り組めばエンゲージメント(会社への思い入れや愛着)が高まり、定着率が向上し優秀な人材の流出を回避できます。
人材採用・育成のコスト削減
リスキリングの取り組みにより、人材採用や育成コストを削減できます。例えば、デジタルスキルを持つ担当者が社内にいない場合、新しい技術に明るい人材を採用しなければいけません。しかし、少子高齢化で労働人口が減少する現代において、採用活動には多大なコストがかかります。
人材を採用できても、入社後に既存社員が自身の業務と並行して新入社員を教育することが必要です。リスキリングで既存社員のスキルを高められれば、新たな人材の育成や採用コストはかかりません。リスキリングによって実務でもスキルを発揮できる既存社員を増やせれば、企業の利益を生み出せる新事業への異動もスムーズにおこなえます。
イノベーションの創出
既存社員が新たな知識やスキルを習得すれば、イノベーションの創出につながりやすくなります。近年は多くの商品やサービスで溢れており、競合他社との差別化が図りにくい時代です。多くの選択肢があるなかで顧客から自社の商品やサービスを選んでもらうには、競合他社にはない自社独自の価値を提供することが求められます。
リスキリングにより今まで思いつかなかった発想やアイデアが生まれる確率が高まるため、既存事業へのマンネリ化を抑制できます。新事業の立ち上げや新規顧客の開拓に成功すれば、売上拡大も期待できるでしょう。リスキリングによる学び直しは、社内に新風を吹き込む意味でも取り組む価値があるといえます。
営業でリスキリングを導入する際の5つのポイント
営業でリスキリングに取り組む際におさえておくべきポイントには、次のようなものが挙げられます。
● 社内の理解を得る
● 自社にあったコンテンツを選択する
● リスキリングの手段を活用する
● 中長期的に継続できる仕組みを作る
● モチベーションアップの仕組みを作る
それぞれのポイントを確認していきましょう。
社内の理解を得る
企業がリスキリングを導入しても、社内の理解がなければ取り組んでもらえません。「なぜスキルを向上すべきなのか」「スキル取得でどのようなメリットがあるのか」などリスキリングに取り組む目的や意義を共有し、全体の理解を得ることが大切です。
例えば、ある会社では今後社内で必要になるスキルや知識を理解してもらうためにオンライン教材や学習プラットフォームを提供しました。オンライン教材や学習プラットフォームを活用することで、在宅ワークやリモート勤務する社員に対応できます。また、必要なスキルを業務ごとに明確化したりスキル保有者を優遇する報酬体系を設定したりなど、リスキリングに取り組むメリットを提示しました。
このように、リスキリング導入の目的やメリットをわかりやすく提示したことで、前向きに取り組む担当者が増えています。
自社にあったコンテンツを選択する
リスキリングのコンテンツ(学習内容)は多くありますが、自社にあうものを選ぶことが重要です。
たとえ他社で成功した学習内容でも、職場環境やメンバーが違うため、必ずしも自社で効果が出るとは限りません。数あるコンテンツの中から適したものを選べるように、自社の現状や問題点を洗い出してみましょう。
問題点を洗い出すと、どのような学習内容が必要なのか深く理解できるため、営業担当者の課題解決に直結するコンテンツを選べるはずです。
ただし、コンテンツ選びを間違えてしまうと期待した効果が得られない場合もあります。ミスマッチを起こさないためにも、十分に検討したうえでコンテンツを選びましょう。
リスキリングの手段を活用する
内製化にこだわる企業もいますが、外部にあるコンテンツやプラットフォームを活用することも検討しましょう。特に初めてリスキリングを導入する場合、コンテンツを自社で考えて作成し、社員に学習してもらうように促すまで予想以上に時間がかかることも多いです。
また、企業によってはコンテンツの作成に多くの人員を割くのが難しい場合もあるでしょう。担当者を決めても通常業務と並行してコンテンツ作成を進めなければいけないため、業務負担が増えます。外部のコンテンツやプラットフォームをうまく活用できれば、準備にかかる時間や費用、担当者の業務負担を大幅に減らせます。
リスキリングのコンテンツは、必ずしも社内で用意すべきものではありません。今は便利なツールが多く存在するため、うまく活用して効率よく進めましょう。
中長期的に継続できる仕組みを作る
担当者にリスキリングの意欲があっても、プライベートに時間を作って学習するのは負担に感じることもあるはずです。学習に負担を感じると、途中でやめてしまう人もいるでしょう。これでは、どれだけ良いリスキリングのコンテンツやプラットフォームを利用しても効果は得られません。
リスキリングを継続してもらえるように、通勤など隙間時間に取り組みやすいコンテンツを用意したり業務のなかで学習時間を設けたりなど中長期的に継続できる環境を整えましょう。社員に過度な負担がかからないように配慮できれば、無理なく学習を続けられます。
モチベーションアップの仕組みを作る
すべての社員がスキル取得に前向きなわけではありません。社内で必要とされるスキルが不足する営業担当者と面談を設けて適切なフィードバックをおこない、学ぶことへのモチベーションを高めてもらう必要があります。また、獲得したスキルを業務で役立たせる環境を整えてあげることも大切です。
いくら学習しても成長の実感が得られないと、自ずとモチベーションが下がります。新たな学びをすぐに業務に活用できる環境を社内で整えて、リスキリングの効果を実感させましょう。本人たちが効果を実感できれば、仕事へのモチベーションアップにもつなげられるはずです。
営業組織全体でのリスキリング導⼊後の運⽤ステップ
リスキリングを効果的に運用するための導入ステップは、次の通りです。
1. 目的や対象者の明確化
2. スキルの可視化
3. 教育プログラムの企画
4. 知識やスキルの実践
5. リスキリングの効果の検証
それぞれの項目を確認していきましょう。
1.目的や対象者の明確化
リスキリングに取り組むにあたって、まずは目的や対象者を明確にしましょう。リスキリングの目的が明確になれば、目指すべき方向性が決まるため社内の理解も得やすくなります。また、全社に向けて実施する場合は別ですが、個人単位でおこなうときは対象者の選定も重要です。
これまでの業績や特性などを考慮しながら担当者を選びます。AIやデータベース、分析ツールなどを活用すれば分析精度が高くなり、より適している担当者を選定できるはずです。さらに対象者に、選ばれた理由を伝えるときにも論理的に説明できるため、納得感を得やすくなります。
2.スキルを可視化する
対象者を選定したら、個々のスキルを可視化しましょう。スキルの可視化により、どのようなスキルを得ればいいかが分かります。AIやデータベース、分析ツールなどを活用して現状のスキルを把握したうえで、営業担当者と不足スキルのフィードバックをおこないましょう。
フィードバックは、1on1ミーティングやキャリア面談を通しておこなうのが良いとされます。1on1ミーティングは上司と部下が1対1で話し合うことであり、人材育成の手法として多くの企業で導入されています。キャリア面談は、その名の通り担当者自身のキャリア形成を話し合う場のため、不足スキルのフィードバックをおこなうには良い機会となるはずです。
3.教育プログラムとコンテンツを企画する
リスキリングを導入する際に重要になるのが、コンテンツ(学習内容)です。今後社内で必要となるスキルや知識を見極めて、それに応じた学習内容を企画して社員に提供することが求められます。ただし、リスキリングの学習内容は専門性が求められるため、社内での企画が難しい場合は外部のコンテンツの利用を検討しましょう。
また、研修やオンライン講座、eラーニングなどリスキリングには、多くの手法があります。
eラーニングやオンライン講座は、インターネットを利用して学習や研修をおこなうものです。時間や場所を問わないのはもちろんのこと、同じ学習教材を使用すれば教育の質が均一化されたり学習の進捗状況を一元化できたりするメリットもあります。
担当者の不足スキルや知識に応じて、必要な育成プログラムやコンテンツを幅広く企画しましょう。
4.知識やスキルを業務で実践する
リスキリングは、育成プログラムを受講させたら終わりではありません。取得したスキルをいかに実践で活用できるかが重要です。自身が取得したスキルを通常業務で実践してくれる場合もありますが、活かし方がわからず取得した知識やスキルを使えない状態でいる人もいます。
リスキリングに取り組んだ担当者が習得した知識やスキルを実践で活かせるように、企業が導いてあげることが大切です。業務のなかで実践して効果が出れば、自身の成長を実感できてリスキリングの重要性を学んでくれるでしょう。
5.リスキリングの効果を検証する
学習した知識やスキルが現場で活かされたら、実践した結果に対するフィードバックの機会を設けて、定期的にリスキリング効果を検証しましょう。そして、リスキリングの改善点を洗い出し、不足する知識やスキルがあればコンテンツ(学習内容)の見直しをおこないます。また、必要に応じて追加の教育プログラムの検討をおこなうことも大切です。
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労働人口の減少やDX化の推進により、技術や知識を学び直すリスキリングの取り組みが重要視されています。リスキリングの導入によりリスキリングの導入により、業務効率化や生産性が向上したり従業員のエンゲージメントを高められたりなど多くの効果を得られます。ただし、単に知識やスキルを習得しても営業活動で実践しなければ意味がありません。
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