営業の離職率の高い状況は人手不足や教育コストの増加など、多くの問題を誘発します。営業の離職が多い会社では、働き方に対する不満や業績へのプレッシャーなど、さまざまな要因が考えられるでしょう。本記事では営業の離職率が高い理由と防止に向けた取り組みを解説します。
もくじ
離職を考える人は多い?営業職の現状
営業の離職を防止するためには、まず営業職が他の職種と比べて本当に離職率が高いのかどうか、営業職の離職に関する現状を正しく知ることが必要です。営業職の中で退職を検討した人の割合がどれほどなのか、そしてその理由を理解しなければ、適切な対策は立てられません。
日本労働調査組合の調査や人材紹介会社のアンケート調査の結果を参考にして、営業職の現状を解説します。
退職を検討した営業職は全体の約7割
日本労働調査組合が、全国の20~49歳の営業職を対象にして、2021年9月に行った「営業職の勤務意識」調査によると、営業職で最近離職を考えたことのある人の割合は、全体の69.6%という結果が出ています。さらにこの数字を細かく見ると「コロナウイルスの影響がある」と答えた人は42.7%、「コロナウイルスの影響とは別の理由」と答えた人は26.9%でした。
つまり、退職を検討した理由として、コロナ禍という時代背景が大きく影響していることがわかります。
参考:「「働く」を調べて発信する日本労働調査組合」>【日労公式】営業辞めたい。ノルマが辛い。約7割が最近退職を検討したという結果に。
離職理由は「給料の安さ」「将来への不安」
人材紹介会社「UZUZ」が2019年に実施した「就職活動に関する」アンケート調査によると、第二新卒(正社員や契約社員としての就業経験3年以内)と既卒の20代に、「前職(現職を含む)はなんですか?」という質問をした結果、「営業職」と回答した人が26.7%。これは他の職種を大きく引き離して1位の数字です。なお2位は、接客・介護・保育・美容などのサービスでした。
退職の理由として多かったのは、「仕事が合わなかった」「社風が合わなかった」「ワークバランスが取れなかった」など。また、先述の日本労働調査組合の調査でも「営業職として働き続けるうえでの懸念や不安は?」という質問に対して、「給料が安い」「将来が不安」との回答が上位を占めました。
参考:「UZUZ|第二新卒/既卒/フリーター/新卒向け就職/転職サポート」>【2019年度版】第二新卒・既卒・フリーターの20代若手人材向け就職活動実態調査|売り手市場にも関わらず92.5%の既卒が就活に苦戦していると回答
離職率が高い営業職の特徴
営業職の高い離職率には、業務の成果が数字として表れやすいという営業職ならではの業務内容が関係しています。
しかし、営業職にもさまざまな業務があり、扱う商品やサービスによって営業方法も異なるものです。営業職の中でも、特に離職率の高い営業業務の特徴として以下の3つが挙げられます。
・新規顧客獲得
・出来高払い
・ノルマがある
それぞれくわしく解説します。
・新規顧客獲得
営業職の中でも特にハードであるといわれているのが、新規顧客獲得の業務です。新規で顧客を開拓する難易度は高く、成約までこぎつけるケースは多くありません。思うように成果が出なくても、電話でのアポ取り、飛び込み営業、ポスティングなど、新規顧客開拓のための業務を継続しなければならないため、精神力も体力も問われます。ハードな業務によって心身ともに消耗してしまい、離職を考えるケースもあるでしょう。
・出来高払い
出来高払いは、自分の営業成績がそのまま給料に直結する仕組みです。結果を出せれば高額の給料が支払われる可能性もありますが、安定しなかったり、結果が芳しくなく給料が低くなったりして生活が苦しくなるケースもあるでしょう。結果と給与が直結することにより生活への不安が強くなって、結果離職に至ることも考えられます。
・ノルマ
ノルマのある営業職は、達成するために無理をしがちです。今までには金融や生命保険などで、二重払いをさせるなど、不適切な販売行動が社会問題となったケースもあります。ノルマがプレッシャーとなり、離職につながるケースも考えられるでしょう。
以上が営業職の中でも特に離職率の高い業務内容の特徴です。しかし、営業職の中でも比較的離職率の高くない業務もあります。取引のある顧客のフォローが中心となる「ルート営業」や、顧客からの問い合わせに基づいて成約を目指す「顧客拡大」などです。
これらの仕事は比較的心身の負担も少なく、他の営業職に比べて離職率が抑えられている傾向にあります。
営業職の離職率が高い業界は?
営業職の離職率は業界によっても変わってきます。離職率の高い主な業種は以下のとおりです。
・生命保険、不動産、金融関連
・自動車販売
・百貨店・コンビニエンスストア・スーパーマーケット
・パチンコ・パチスロ
それぞれの特徴を解説します。
・生命保険、不動産、金融関連
これらの業界の営業の特徴は、先述で離職率が高いと紹介した新規顧客開拓が多いことです。さらに高額商品が多く、無形の場合もあるため、売り込みの難易度が高くなる傾向があり、仕事の難しさが離職率の高さにつながります。
・自動車販売
自動車販売も高額であるため、成約のハードルが上がり、離職率も高くなる傾向があります。
・百貨店、コンビニエンスストア、スーパーマーケット
これらの小売業・卸業の営業職は、労働時間が不規則になり、残業が多くなる傾向があります。しかし、仕事がハードであるわりに、賃金は高くない場合が多く、働くモチベーションが低下し、離職率が高くなりやすい業種だといえるでしょう。
一方で、上記以外の営業職の中でもメーカー系、電力・ガスなどのライフライン系の業界は、既存の顧客への営業が中心になる場合が多く、比較的安定している業界であるため、離職率は低めです。
営業職の離職がまねく5つの問題
営業職の高い離職率を放置しておくと、さまざまな問題が生じる可能性があります。離職者が増えることは人手不足につながり、悪循環を起こしかねません。営業の離職がもたらす問題として考えられるのは、おもに以下の5つです。
・売上が低下する
・営業ノウハウを蓄積できない
・採用コスト・教育コストがかかる
・引継ぎ業務の負担が増える
・社員のモチベーションが低下しさらなる離職をまねく
それぞれくわしく解説します。
売上が低下する
経験や知識を持っている社員が離職した場合、売上の低下に直結する可能性が大きくなるでしょう。また、優秀な社員が少なくなることだけが、離職が引き起こす問題になるわけではありません。
離職者が同業他社などライバル会社に再就職した場合には、本来であれば獲得できていたはずの顧客を奪われてしまうケースが想定されます。
営業ノウハウを蓄積できない
社員の離職は、営業チーム全体にとっても大きなマイナスになります。社員が頻繁に入れ替わることにより、離職した社員が持っていた営業ノウハウやスキルをチーム内で蓄積できなくなるからです。
優秀な社員の離職は、社員が成長するまでにかけた時間の蓄積がゼロに戻ることを意味します。結果として、チーム全体の営業スキルが低下するケースも出てくるでしょう。
採用コスト・教育コストがかかる
離職者が出ると、新たに人材を獲得するための採用コストがかかります。かかる金額は採用形態などによって異なりますが、求人広告費や人材紹介企業への支払いなどが生じるため、相応のコストが想定されます。加えて、離職者に代わって入社した社員を教育するためのコストがかかります。
また、離職率が高い企業という認識が広まると、求職者から敬遠される可能性が出ることも問題といえるでしょう。
引継ぎ業務の負担が増える
離職によって引継ぎ業務が発生し、引き受ける側の負担が増えることも問題のひとつです。引継ぎ業務とは、取引先への挨拶まわりや、顧客関連情報の引継ぎです。時間も労力もかかるため、新規の担当者の負担も増えます。
また、引継ぎがスムーズにいかないと、顧客と新しい担当者との意思疎通が不十分となり、今まで構築していた顧客との関係を維持できなくなったり、顧客に迷惑をかけたりするケースも出てきます。
社員のモチベーションが低下しさらなる離職をまねく
営業チームの中から離職者が出ることによって、人手不足となり、残っている社員の負担増が想定されます。その結果、チーム内のモチベーションが低下して、更なる離職を招くという悪循環に陥ることもありえるでしょう。
また、マネジメント側としては部下の離職が続くと、これまでかけてきた育成の労力が水の泡となり、モチベーション低下にもつながります。
営業職の離職防止に向けた7つの対策
営業職の離職はさまざまな問題を生むため、放置せずに対策することが必要です。人材を定着させるためには、現状を顧みる必要があります。次に挙げるような複数の角度からの改善を行い、セールスインブルーメントを意識した組織作りを進めていきましょう。
ここでは、商品やサービスの見直し、労働環境の改善、メンタルヘルスヘア体制の整備、社内コミュニケーションの活性化、目標設定値の見直し、ツールの活用、組織改革など、7つの対策を解説します。
商品・サービスの内容を見直す
商品・サービスの売上が上がらない場合には、その原因を営業担当者に押しつけるのではなく、商品・サービス側を見直す作業も必要です。結果が出ない原因が商品やサービスにある可能性も少なくありません。
ターゲット設定、価格設定などが適切かどうかを検討することも大切な作業です。商品・サービスの内容を見直すことで営業担当者の負担軽減につながり、離職防止の効果も期待できます。
ノルマ廃止も含めた労働環境の見直しを図る
営業職のノルマがプレッシャーとなり、離職の要因になっているケースも考えられます。それと併せて、労働環境の悪さが離職の原因になるケースが少なくないため、労働環境の見直しを図ることが離職防止の対策として有効でしょう。
また、営業職の労働環境の悪さが対外的に広まると、企業のイメージダウンにもなりかねません。営業職の労働環境を見直すことによって、営業社員の会社に対する信頼感が強まり、営業のモチベーション向上につながる好循環も期待できます。
社員のメンタルヘルスケアを行う
営業職の離職対策として、社員のメンタルヘルスケアを行うことも大切です。労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の整備を目的として制定された「労働安全衛生法」では、現在、従業者が50人以上の事業所で、従業者に対してストレスチェックの実施が義務づけられています。ストレスチェックとは、労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査です。
社内で産業医やセラピストによるメンタルケアを実施する企業も増加しています。ストレスのかかりやすい営業職のメンタルヘルスケアを行うことは、離職防止対策としても有効といえるでしょう。
社内のコミュニケーション活性化を図る
社内で円滑なコミュニケーションを行えない職場環境では、離職率が上がる傾向があります。特に近年は、テレワークの普及によって、営業社員同士のコミュニケーションが不足になりがちです。社内のコミュニケーションが活性化すれば、各自の課題や悩みを早期に発見でき、営業職の精神的負担の軽減にもつながります。
また、社内で成果を出している営業職と対話することもプレッシャーの軽減に効果的です。対話を通して成果を出している社員が持つ営業に対する姿勢を再確認できるため、営業マインド向上につながります。
目標の設定値を見直す
営業職に課された目標の設定値を見直すことも大切といえるでしょう。目標の設定値が高すぎることがストレスとなり、離職の原因になっているケースがあるからです。また、低すぎる目標がモチベーション低下をもたらすケースもあります。
そのため、営業職が納得できて、なおかつ営業として目指す売上に見合った目標を設定することが重要です。営業担当者が「多少頑張ると達成できる」と感じられる目標であれば、モチベーションの低下を防止できるでしょう。
CRM・SFAを活用する
CRMやSFAなどのツールを活用することも、離職対策として有効です。CRMは「Customer Relationship Management」という英語の略語で、「顧客情報を管理できるツール」を表しています。SFAは「Sales Force Automation」という英語の略語で、「営業活動を共有・分析するためのツール」です。
この2つのツールを活用することで、顧客情報管理や、社内の営業活動内容の共有をメインとした部分の効率化を図れるため、業務の負担低減につながります。結果的に離職防止にもつながる効果を得られるでしょう。
セールスインブルーメントを意識した組織改革を行う
セールスインブルーメントを意識して組織改革を行うことも、離職対策として有効といえるでしょう。セールスインブルーメントは英語では「Sales Enablement」と表記される言葉で、「営業活動を改善して、最適化するための概念や取り組み」を意味しています。
つまり、営業のプロセスを見直して効率化を図り、営業チーム全体の成果と能力の向上を目指す取り組みのことです。セールスインブルーメントの実現には、外部サービスを利用する方法もあります。セールスインブルーメントを意識した組織改革により、働くモチベーションが上がることも期待でき、営業マインドの向上にもつながるでしょう。
営業職の離職を防止し業績アップにつなげよう
営業職の離職率の高さについて解説してきました。営業職の離職率が高い理由には、新規顧客獲得・出来高払い・ノルマなど、プレッシャーのかかりやすい営業職ならではの特徴が挙げられます。その結果、営業の離職により、売上が低下する、営業ノウハウの蓄積ができない、採用・教育コストが増加するといった、さまざまな問題を引き起こしてしまいます。
離職を防止するためには、ノルマの廃止、労働環境の向上、目標値の見直し、CRM・SFAの活用による業務の効率化、セールスインブルーメントを意識した組織改革の断行など、さまざまな対策を取ることが必要です。また、営業職の営業マインドの向上を目指すことも効果的でしょう。
離職防止のためには、営業の業務効率化が欠かせません。ツールを活用して、営業プロセスを効率的に管理してみてはいかがでしょうか。『shouin for セールス』では、営業ノウハウをコンテンツ化しているため、営業スキルの向上とともに営業マインドの向上にも役立ちます。
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