社内ナレッジの共有とは、特定の社員の知識やノウハウなどを、社内で共有する取り組みのことです。組織の生産性向上につながるほか、脱属人化の足がかりにもなることも期待できます。今回は、社内ナレッジ共有のメリットや、取り組みを成功させるためのポイントを解説します。
もくじ
社内ナレッジの共有とは
社内ナレッジの共有とは、それぞれの社員が業務を通じて身に付けた知識やノウハウ、成功事例に関する情報などを、社内で共有する取り組みのことです。社内ナレッジの共有ができれば組織の生産性向上につながるほか、脱属人化の足がかりにもなります。
ナレッジは英語の「knowledge」で、日本語では知識を意味する言葉です。そこから転じて企業活動にポジティブな影響をもたらす社員の知識や経験、ノウハウなどを指すことが増えています。
特定の社員の経験やノウハウは共有することが困難なことが多く、属人化するケースがほとんどでした。しかし、組織の生産性向上を図るためには、これらのナレッジを社員全体に共有し、特定の社員に依存することなく成果を出すことが求められます。
ナレッジは2つに分類される
ナレッジは大きく、「暗黙知」と「形式知」2つに分類されます。暗黙知と形式知のそれぞれの特徴を解説していきます。
暗黙知
暗黙知とは、言語化が困難な知識や、言語化しても理解しづらい知識のことです。ここでいう言語化には、言葉だけではなく図式や数式も含みます。暗黙知の例をあげるとトップセールスの営業スキルや、職人の長年の経験にもとづく知識などが該当します。
暗黙知は言語化が困難であるという特徴から共有されづらく、その知識を持つ社員にしか対応できない特定の業務が生まれやすく、属人化を招きやすい点が特徴です。
形式知
形式知は、文章や図、計算式など、誰が見ても理解できるような形式で表現された客観的な情報や知識のことです。暗黙知を言語化・マニュアル化し、組織全体で活用できる形に変換すると形式知になります。
形式知を集めて蓄積し、いつでもどこからでも検索できる環境を構築することで、生産性や業務効率の向上が実現しやすくなります。
社内で共有するナレッジの種類
社内で共有する必要のある具体的なナレッジは、主に以下の4つです。
● 成功事例
● 専門知識
● 顧客情報
● 汎用的な情報
それぞれの内容を確認していきましょう。
成功事例
業務の成功事例をナレッジとして共有できれば、社員全体で勝ちパターンを学び実行した結果、社内の生産性の向上が期待できます。
同様の業務であれば、成功事例をそのまま当てはめることが可能でしょう。それだけでなく、ほかの業務においてもヒントとして活用できる可能性があります。成功事例を知ることができれば、課題の解決につながったり、新しい取り組みのヒントとなったりするでしょう。
専門知識
社内での共有が求められるナレッジとしては、専門知識が挙げられます。特定の社員のみが保有する専門知識を社内で共有することで、組織全体がレベルアップします。
ナレッジの属人化を防ぐことは、人手不足や業務負担の偏りを解消することにも有効です。業務経験が浅い社員であっても、ナレッジを確認しながら、ある程度の業務は1人で行えるようになるでしょう。一方、ベテラン社員はこれまで教育や育成にかけていた時間を、コアな業務にかけることが可能になります。
顧客情報
顧客情報も、社内で共有することが効果的なナレッジの1つです。たとえばある優良顧客の情報を詳しく知り、対応できるのが特定の社員のみの場合、その社員がいなくなることはそのままビジネスチャンスの喪失を意味します。
顧客情報を社内で共有することで、全社員が顧客に対する適切な対応ができるため、顧客満足度の向上につながると考えられます。
汎用的な情報
ここまでお伝えした成功事例や専門知識、顧客情報以外の、あらゆる分野の日常業務にも使える汎用的な情報も、社内で共有することで企業全体の生産性を高める手立てとなります。
具体的には、社内の幅広い分野に使えるフレームワークなどが該当するでしょう。ビジネスにおけるフレームワークとは、共通して使える考え方や、意思決定・分析・課題解決・戦略立案などの枠組みなどのことです。
社内ナレッジの共有が重要な理由
社内ナレッジの共有が重要なのは、組織の生産性向上につながるほか、脱属人化の足がかりにもなるためです。ここではさらに詳しく、社内ナレッジの共有が求められる以下の2つの理由を解説します。
● 業務効率の必要性
● 人材の流動化・働き方の多様化
それぞれの内容を確認していきましょう。
業務効率向上の必要性
企業が継続的に利益を生み出すには、業務の効率化を進め、生産性の向上を図ることが不可欠です。しかし現実には社内で情報や知識が共有されず、手間や機会損失が生じることは珍しくありません。
1つずつみると些細なことに感じられても、それらが積み重なることで業務の遅れを招きます。最終的に売上の低下の要因になり、経営にマイナスの影響を及ぼす可能性があるでしょう。徹底的に無駄を排除し業務効率を向上させることは、組織の強化には欠かせません。
人材の流動化・働き方の多様化
社内ナレッジの共有の重要性が高まっている理由として、人材の流動化や働き方の多様化も挙げられるでしょう。
終身雇用が崩壊しつつあり、転職することが当たり前になるなど、人材の流動性が高まっています。また現在はフルタイムの正社員だけでなく、契約社員や短時間勤務、フレックス制、リモートワークなど働き方が多様化していることも特徴的です。このように人材の入れ替わりが激しい、また同僚や上司にすぐに質問できない環境でも、社内に蓄積したナレッジを活用できる体制の整備が求められています。
社内ナレッジを共有する3つのメリット
社内でナレッジを共有するメリットは、主に次の3つです。
・業務の効率化・生産性の向上につながる
・業務の再現性が高まる
・教育コストを削減できる
各メリットの詳細について、順番に解説していきます。
業務の効率化・生産性の向上につながる
ここまで繰り返しお伝えしている通り、社内ナレッジを共有する最大のメリットは、業務の効率化や生産性の向上につながることです。
社内のナレッジをすぐに検索・閲覧できる環境を作ることで、確認や探す手間が省けたり、 社内の情報の引継ぎを不備なく行なえたりするでしょう。また、顧客情報を社内で共有すれば、全員が顧客に対する適切な対応が可能になります。その結果、業務の効率化や生産性向上が図られ、組織力が強化されます。
そのほか多くの組織において、一部の社員の優れた行動が利益の創出に寄与していることも少なくありません。その行動の元になる考え方やノウハウも、社内の誰もが持っているものではなく、その社員が独自に身に付けたものであることがほとんどです。
そのため特定の社員の考え方やノウハウ、行動の指針を、ほかの社員にも共有することで、組織全体のレベルの底上げが期待できます。
さらに業務上で成功した理由、失敗した理由を分析し、蓄積することで、次回以降に活用することもできます。例えば営業活動における分析データが蓄積されれば、何かしらの共通点がある過去の事例を参考にして、成功例を増やせるでしょう。結果的に、組織としての営業力アップも可能です。
業務の再現性が高まる
社内でナレッジが共有できれば、あらゆる業務の再現性が高まります。例えば重要顧客の対応なども、担当社員の欠勤や離職によって、ほかの社員に担当が代わっても業務の質とフローを保つことが可能です。
業務が属人化することを防ぎ平準化を図ることは顧客満足につながるため、結果的に企業の利益の創出にも寄与します。部署間の異動の際に発生する引継ぎも、短時間でスムーズに行なえるようになるでしょう。
教育コストを削減できる
社内ナレッジとして業務の進め方や要点が共有されていれば、教育コストを削減する効果も見込めます。社内に蓄積したナレッジは、新入社員向けのマニュアルとしても使えるため、従来のように上司が部下に付いて教える必要がなくなるほか、研修の時間も短縮できるためです。
また一般的に、社内教育は教育する側のスキルや経験によって、教育のレベルや内容にばらつきが出やすいという課題があります。しかし、社内ナレッジは再現性が高いため、教育する側のスキルや経験に左右されないこともメリットです。
新入社員研修や、異動してきた社員への指導は時間もコストもかかりますが、必要なナレッジを蓄積しておけば繰り返し活用でき、教育コストが削減できるでしょう。
社内ナレッジを共有する方法
社内のナレッジを共有するための方法は、以下のとおりです。
1. 暗黙知を洗い出す
2. 暗黙知から形式知に変換する
3. 形式知を集積する
上から順番に進めることで効率的にナレッジを集積し、共有できるでしょう。各段階におけるポイントを解説します。
1.暗黙知を洗い出す
社内のナレッジの共有は、暗黙知を洗い出す作業からスタートします。暗黙知を持つ社員にとっては、その知識を持つことは普通のことであり、それが暗黙知であることにすら気づいていないことがほとんどです。
さらに、言語化が困難であったために属人化されており、周囲からもみえにくくなっている可能性があります。そのため、社内全体で暗黙知を言語化する必要性を共通認識として持ち、自分が持つ暗黙知を意識してもらうための働きかけが不可欠です。
2.暗黙知から形式知に変換する
暗黙知を洗い出す作業が進んだら、形式知に変換するのが次のステップです。 社内でナレッジ共有を進め、組織の生産性向上や脱属人化の足がかりにするためには、暗黙知から形式知への転換が非常に重要とされます。暗黙知から形式知に変換する際は、ナレッジマネジメントの基礎理論として用いられる「SECIモデル(セキモデル)」を意識しましょう。
SECIモデルとは、暗黙知を形式知に変換するフレームワークのことです。以下の4つのプロセスを循環させることで、暗黙知を形式知に変換するだけでなく、新たな暗黙知を生み出してナレッジの積み上げていきます。
● 共同化
● 表出化
● 結合化
● 内面化
このうち、暗黙知を形式知に変えるために必要な工程は「共同化」と「表出化」です。暗黙知を保有する社員が、自身の言葉では説明できない場合でも、ほかの社員であれば説明ができたり、社員同士の会話で言語化できたりする可能性があります。
そのため、暗黙知から形式知への変換は、まずは営業活動への同行やOJTなどの共同作業を通じて行いましょう。
しかし、なかには簡単には形式知化することが困難な場合があります。そのようなケースでは、その暗黙知が属人化した状態が続かないように、社内に徐々に継承されていくように計画を立てま 。
3.形式知を集積する
暗黙知を形式知に変換した後は、その形式知を1つの場所に集積します。例えばマニュアルや社内SNSなど、いくつかの場所に分散してしまうと、すぐに必要なナレッジにアクセスできないという弊害が生じるでしょう。
そのため、形式知は1つのツールに集積することが基本です。それによって、社員は簡単に、すぐにナレッジを検索することが可能になります。また、形式知を集積する際は、今後本当に必要になると考えられるものを厳選することもポイントです。多数のナレッジを集めても、必要性の高いものでなければあまり意味がありません。
社内ナレッジの共有を成功させる4つのポイント
社内のナレッジの共有を成功させるには、次の4つのポイントを意識する必要があります。
・社内ナレッジの管理者を任命する
・共有するナレッジの範囲を決める
・社内でナレッジ共有することの重要性を理解してもらう
・ナレッジ共有がしやすいツールなどを活用する
社内ナレッジ共有に必須なポイントを、それぞれ解説していきましょう。
社内ナレッジの管理者を任命する
社内ナレッジを推進する管理者の任命は、取り組みを成功させるために必須といえます。ナレッジの定着に向けて現場を統率できる資質を持つ人物を選抜し、管理者に任命します。はじめからナレッジ共有の仕組みや意義を理解する社員は少ないため、しっかりと育成したうえでミッションを遂行してもらうことが大切です。
社内ナレッジの管理者が行うのは、ナレッジ共有の推進はもちろん、その効果に対する定期的な検証です。社内のナレッジ共有は、すぐには効果を感じにくいほか、効果を定量的に評価することが困難であることが一般的でしょう。そのためナレッジ共有におけるわかりやすい指標を設定し、達成度合いや課題、解決策を繰り返し検証する必要があります。
検証の結果明らかになった効果や課題を共有することで、社内全体に徐々に認知度が高まっていくことが期待できます。
共有するナレッジの範囲を決める
共有するナレッジの範囲を明確に決めることも、社内ナレッジの共有を成功させるためのポイントです。社内のナレッジ共有の主な目的は、業務の効率性を上げるほか、社内の業務レベルを底上げすることで生産性を向上させ、組織の強化を図ることです。そのため、これらの目的が達成できるかどうかを判断基準とするとよいでしょう。
社内ナレッジの管理者が中心となって、共有が必要なナレッジかどうかの判別をし、共有するナレッジの範囲を確定していくことをおすすめします。
なお、ナレッジの集積がなかなか進まないといったケースも想定されます。前述のとおり、暗黙知を持つ社員にとっては、その知識は当然のことという認識で、それが暗黙知であることに気づいていないことが多くあります。また、社員が「自分の知識やノウハウは役に立たないだろう」と思っている場合も、ナレッジが集まりにくいでしょう。
そのような場合は、まず社員の困りごとを集めるとよいでしょう。「役に立つ知識やノウハウを教えてください」ではなく、「業務で困っていることを教えてください」と声をかけます。そして集めた困りごとに対して、他の社員に対処法を募集することで、ナレッジの集積を進めていきましょう。
社内でナレッジ共有することの重要性を理解してもらう
社内でナレッジ共有を進める際に重要なのは、取り組みの重要性を少しでも多くの社員に理解してもらうことです。特定の部署の社員のみが取り組んでも、効果は期待できないためです。
ナレッジ共有に限らず、新たな取り組みに対して抵抗を感じる社員は少なくありません。導入の意図がわからないと、多くの社員は、やらなければならないことが増えることを面倒に感じるでしょう。そのため、経営陣など組織のトップが率先して取り組む姿勢を示し、組織としての本気度を伝える必要があります。
さらにナレッジの共有と活用は、企業の成長だけでなく顧客満足度の向上や社内環境の改善にもつながることを丁寧に説明し、社員の納得を得ることが重要です。
ナレッジ共有がしやすいツールなどを活用する
社内でナレッジ共有がしやすいツールなどを活用することも有効です。社内ナレッジの共有を成功させるためには、現場の社員の負担を少しでも小さくする必要があります。
負担が大きく時間がかかるほどナレッジの共有は進まず、社員が取り組みを敬遠するリスクも高まるでしょう。短時間のうちに気軽にナレッジ共有できる環境整備のために、有効なツールの活用を検討することをおすすめします。
社内ナレッジを共有して営業組織を強化させよう
社内ナレッジの共有とは、特定の社員の知識やノウハウ、成功事例に関する情報などを、社内で共有する取り組みのことです。社内ナレッジの共有ができれば組織の生産性向上につながるほか、脱属人化の足がかりにもなるでしょう。
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